ふたりの「女流」ピアニスト

 

 

どちらも女性という以外あまり共通点はなさそうですが、とても似ているように思います、音楽が。

 

リリー・ クラウス

Lili Kraus, 1903〜1986

 

 

フランス・クリダ 

France Cridat, 1932〜2012

 

 

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ところで僕は、いちばん好きな作曲家はだれか?と聞かれたら、モーツァルトと答えるようにしています。

 

ようにしている、というのは、それくらい冷静でないと自分の中で歯止めが効かなくなってしまうものですから。

 

そんな僕のモーツァルト愛を決定的にしたのがリリー・クラウスの演奏でした。

 

クラウスの弾くモーツァルト、これはもうね、モーツァルト本人の演奏なんじゃないかと思ってしまうほどに無邪気で自由闊達。

 

どうにも、僕らはモーツァルトを弾くとなると慎重になりすぎるきらいがある。何か腫れ物にでも触るような、臆病で軟弱な演奏をしてしまう傾向がある。それがまた上品で奥ゆかしいモーツァルト演奏などと評されたりして…

 

ウンチくんの音楽に、そんなとってつけたようなお行儀の良さはいらない。

 

クラウスの演奏はその真逆、もちろん下品では全くなく抑制が効いているけれど、どの曲も第一音からパシーン!と思い切りがいい。悲しみや深刻さなども表面上は軽く笑ってみせる。モーツァルトはこうでなくてはね。

 

 

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ところで僕はリストの音楽が大好きなのですが、これについてはあまり言わないようにしています。理由は、お察しいただけると思いますが、いまだ根強いリストの音楽に対する偏見…からの保身です。いかんなあ。。。

 

僕がリストの音楽にのめり込んでいったのはレスリー・ハワードの99枚の全集をセコセコ集めている時だったのですが、決定打となったのは、他ならぬマダム・リスト、フランス・クリダの演奏との出会いでした。

 

 

あまりに膨大で謎の多いリストの作品ですが、クリダの演奏からはリスト音楽の全容が手に取るようわかるではありませんか。

 

自分もピアノを弾く人間として、クリダの演奏を聴きますと、リストの曲にしばしば出てくるリスキーなパッセージに怯まず勢いよく飛び込む勇気に、先ずは恐れ入ります。ともすれば蛇足と捉えられがちなそれらのパッセージを自然な流れの中で弾いてみせるのは容易なことでないでしょう。

 

だから、割とキズはあります。細部をもっと丁寧に処理するという選択肢もあっただろうに、そんなことには目もくれなかったクリダの姿勢が逆にリストの音楽の美しさを際立たせるという不思議。

 

長大なソナタやダンテ幻想曲があっという間に感じられます。難解さ故に聴き通すのが大変な「巡礼の年第3年」ですら、まるで展覧会の絵を聴いているような感覚で味わうことができるのです。

 

芸術的な才覚ってものがこういう面で露わになるのかと思うと、やはり音楽は奥が深い。

 

 

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さて最初のクラウス、ブタペスト出身でバルトークの弟子でもあるリリー・クラウスですが、リストの録音ってのは聴いたことがありません。クラウスがリストを弾いていたらきっとクリダみたいな演奏になるんだろうな。逆も然り、クリダのモーツァルトってのもあまり聴いたことがありません。

 

実は同一人物だったり、しないよね。