もちろん本物のピアノのほうがよい、とは申し上げておきます。
はじめてピアノを習うお子様が電子ピアノしか知らずに、ピアノとはコンセントを差し込んで電源を入れて音を出す楽器である、なんて思い込んでもらっては困りますからね。
電子ピアノを使って、倍音を沢山含んだ、ホールの隅々まで染み渡るようなピアニシモを弾くことは残念ながらできません。
本物のピアノに触れる機会をお持ちになり、どういう仕組みで音が出るのか、それは知っておいてほしいと思います。
ただ、正直なところ僕は電子ピアノにそれほど抵抗はありません。
学生だった頃、留学先のワルシャワ音楽大学にある練習用ピアノが電子ピアノでしたからね。
今でもそうなのかわかりませんが、そもそもピアノ科用の練習室は6部屋しかありません。
たったの6部屋ですよ。争奪戦です。
その代わりに廊下には電子ピアノがずらりと並び、学生はヘッドホンをつけてそこで練習しているのです。
フレデリック・ショパンが学び、卒業生にはシマノフスキ、パデレフスキ、ルトスワフスキ、ランドフスカ等、音楽史上のビッグネームが名を連ねるポーランドが世界に誇る名門音楽大学で使われているピアノが、クラビノーバです。
電子ピアノにまつわるポーランドの思い出をひとつ。
本番の会場に着いたら楽器が電子ピアノという時がありました。それでドヴォルザークのピアノ五重奏を弾かなくてはいけない。
常時オープンな会場でしたからリハーサルの空き時間に僕がポロポロ試し弾きをしていますと人が集まってくるんです。で、席について聴いているのです。
この日は室内楽用の配置の為に客席からはピアニストの手元が見えません。
そこで、試しに自動のデモ演奏に入っていた革命のエチュードを流してみました。
大喝采でした。きっと僕が弾いていると思ったのでしょうね。面白いので続けて黒鍵のエチュード、の自動演奏。電子ピアノでこんなに粒立ちよく弾けるわけないだろう…などと思いながら。
あまりにみんなが真剣に聴いているものだから僕は申し訳なくなって途中で立ちがってピアノから離れネタバラシをしました。
その時の皆さんの顔といったら!
「本番では本当に僕が弾きますからね!」と、会場にいらした皆さんと仲良くなれました。
どんな楽器であろうと最良の音楽を奏でるよう努めるべきです。